故人が残した財産(遺産)を受け取ることを相続といいます。また、この場合の故人を被相続人、相続を受ける人を相続人といいます。
相続では、預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続人に承継されることになります。
相続人になる人は、民法887条、889条及び890条で次のように定められています。
配偶者は常に相続人となりますし、第1順位の相続人である子も必ず相続人になりますが、第2順位の相続人である父母は、第1順位の相続人である子がいない場合、第3順位の相続人である兄弟姉妹は、子も父母もいない場合に初めて相続人となります。
それぞれの立場の相続人が、遺産のうちの何分の1を相続するかについて、民法900条は次のように定めています。
これは、法律が定めた相続分ということで、法定相続分と呼ばれます。
法定相続分は、遺産分割協議を行う際の指針となるだけでなく、話し合いがまとまらずに遺産分割審判や訴訟になった場合には、原則として法定相続分に従った分割を命じられることになります。
他方、遺産分割協議において、すべての相続人が納得しているのであれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分けることもできますし、被相続人が遺言によって、法定相続分と異なる割合で遺産を分けるよう指示することもできます。
被相続人が亡くなりますと相続が開始されます。もっとも、相続人は必ず遺産を相続しなければならないわけではありません。特に、マイナスの財産(借金など)しかない場合や、プラスの財産(不動産など)とマイナスの財産(借金など)があるが、マイナスの財産の額が大きいような場合、相続人は相続をすることで損をすることになってしまいます。
この場合、自己のために相続の開始があったことを知ったときから(通常は被相続人が亡くなったことを知ったときから)原則3か月以内に相続放棄の手続きを行います。この3か月の期間のことを熟慮期間といいます。
ある相続人が相続放棄を行うと、その方以外の相続人間で遺産を分けることになります。相続人全員が相続放棄をして、相続する人が一人もいなくなると、家庭裁判所は相続財産管理人を選任し、そこで清算が行われます。最終的に、プラスの財産が残ればその財産は国庫に帰属し(民法959条)、マイナスの財産が残れば債権者は債権回収を諦めざるを得なくなります。
相続が開始すると、被相続人の財産(遺産)は相続人の共有財産となります。
共有財産ということは、共有者が持ち分を勝手に処分することが出来ないということを意味します。具体的なケースで見てみましょう。
【具体的なケース】
母(X)が亡くなり、姉(A)と弟(B)の二人が相続人だったとしましょう。
遺産は港区の一軒家(不動産①)と千代田区のマンション一室(不動産②)だけだったとします。Aは不動産①に住んでおり、Bは不動産②に住んでいました。
遺言はありませんでした。
この場合、不動産①と不動産②はいずれもAとBがそれぞれ2分の1の持ち分で共有している状態になります。そのため、Aが不動産①を勝手に売ったり、Bが不動産②を勝手に他人に貸したりすることはできないのです。
遺産分割は、遺産の共有状態を解消するために、個々の不動産を各相続人に分ける手続きといえます。上記のケースであれば、例えば「Aが不動産①を相続し、Bが不動産②を相続する」というように決めることが遺産分割なのです。
遺産分割をするには、相続人全員の意見が一致しなければなりません。相続人全員が納得する遺産分割の仕方を決めるために話し合うことを遺産分割協議といい、協議の末、全員が納得した結果を文書にしたものを遺産分割協議書といいます。
上の【具体的なケース】でいいますと、AとBが話し合いの末、「Aが不動産①を相続し、Bが不動産②を相続する」ということが決まれば、その内容を遺産部活協議書に記載し、AとB双方が署名捺印します。そうして初めて、Aは不動産①を、Bは不動産②を自由に処分することができるようになるのです。
ところで、不動産①の時価が1億円、不動産②の時価が1億5000万円だった場合はどうなるでしょう?単純に「Aが不動産①を相続し、Bが不動産②を相続する」ということで話がまとまるでしょうか?もちろん、損をしているAさんがそれで良いと言えば何も問題ありません。しかし、Aさんとしては、Bさんと法定相続分が同じなのに、受け取る財産の価値が5000万円も少ないのは納得できないかもしれません。このような場合、次のような分割方法が考えられます。
さらに、上記の分割の組み合わせというのも考えられます。例えば、Aが不動産①を取得して、不動産②を売却し、入ってきた1億5000万円のうち2500万円をAが取得し、残り1億2500万円をBが取得するといった方法です。
いずれにしても、AとB双方が納得できる方法を探さなければなりません。
話し合いを尽くしても相続人全員が納得できる分割方法が見つからなかった場合には、遺産分割審判の申立てを行うことにより、遺産分割の方法を裁判所に決めてもらうことができます。裁判所は、相続分を前提として、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して」遺産分割の方法を定めます(民法906条)。
遺産分割の審判は判決と同じ効力を持っていますので、裁判所が定めた分割方法に従って、強制的に相続を実現させることができます。このため、遺産分割審判の申立てに際しては、最終的に裁判所による審判が下される場合、どのような審判になるだろうかという点を、事前に十分検討しておく必要があります。
なお、通常は遺産分割調停が審判に先立って行われます。遺産分割調停の期間に特に決まりはありませんが、4~6か月程度かけて話し合いが行われるケースが多いように思います。
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